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東京地方裁判所 平成2年(行ウ)137号 判決

東京都千代田区東神田2丁目10番13号

原告

株式会社辰巳屋不動産

右代表者代表取締役

宮井芳子

右訴訟代理人弁護士

福田照幸

福田治榮

東京都千代田区神田錦長3丁目3番地

被告

神田税務署長 後藤一雄

右訴訟代理人弁護士

岩渕正紀

右指定代理人

小磯武男

津田真美

蓑田徳昭

秋元秀仁

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和60年9月1日から昭和61年8月31日までの事業年度の法人税について昭和63年4月28日付けでした更正のうち所得金額を721,622円として計算した額を超える部分を取り消す。

2  被告が昭和63年4月28日付けで原告に対してした前項の事業年度分以降の法人税の青色申告承認取消処分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和60年9月1日から昭和61年8月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税(以下「本件法人税」という。)について,原告が青色の申告書でした確定申告及び被告がした更正(以下「本件更正」という。)並びに原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表のとおりである。

2  被告が原告に対してした本件事業年度分以降の法人税の青色申告承認取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)並びに本件青色取消処分について原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表注欄のとおりである。

3  原告は,本件更正のうち所得金額を721,622円として計算した額を超える部分及び本件青色取消処分に不服があるから,その各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の各事実は認める。

三  抗弁

1  本件更正の適法性

(一)申告所得金額 721,622円

右金額は,原告の本件法人税の確定申告に係る所得金額である。

(二)建物等の譲渡益 122,216,106円

(1) 原告は,不動産の賃貸,管理業を営む同族会社であり,その代表取締役は,宮井芳子(以下「芳子」という。)である。原告の前代表取締役であり,芳子の夫であった宮井由楠(以下「由楠」という。)は,昭和58年9月30日死亡した。由楠と芳子との間の子は,宮井一成(以下「一成」という。),宮井鼎次(以下「鼎次」という。)及び宮井三郎(以下「三郎」という。)であり,このうち,三郎は,原告の取締役である。

(2)ア 原告は,もと別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。本件建物は,同目録二記載の土地(以下「甲土地」という。)の一部と同目録三記載の土地中昭和61年3月31日分筆されて同目録四記載の土地となる部分(以下,右分筆の前後を通じて「乙土地」という。)の一部とに跨がって建てられていた。

イ 甲土地は,芳子がこれを所有しており,原告は,そのうち本件建物の敷地となっている部分(以下「甲一部分」という。)を芳子から借り受けていたが,原告は,以下のとおり,芳子等のために定期的に経済的な負担をしており,これをもって芳子等に対し甲一部分の賃料を支払っているものと評価することができるから,右の貸借関係は賃貸借であって,原告の甲一部分に対する権利は借地権であるということができる。

a 由楠は,本件建物の三階部分を,賃料を支払うことなく使用しており,その死亡後は芳子がこれを承継して同様に使用しているのであるから,その使用利益に相当する金額は,原告が由楠又は芳子に対し甲一部分の賃料として負担したものと評価することができる。

b 原告は,甲土地と,同様に芳子所有の別紙物件目録五記載の建物(以下「丙建物」という。)とに対する固定資産税の納付資金を出捐しており,これに相当する金額は,原告が芳子に対し甲一部分の賃料として負担したものと評価することができる。

c 原告は,乙土地の賃料を借地権者である由楠(又はその承継人)のために出捐しており,これに相当する金額は,原告が由楠(又はその承継人)に対し甲一部分の賃料として負担したものと評価することができる。

ウ 乙土地は,鈴木善一(以下「鈴木」という。)がこれを所有して由楠に賃貸していたところ,原告は,そのうち本件建物の敷地の部分(以下「乙一部分」という。)を由楠から転借していた。

(3) 原告及び芳子は,昭和60年10月28日日本住建販売株式会社(以下「日本住建販売」という。)との間で本件建物及び甲土地並びに乙土地の借地権を売り渡す旨の契約を締結し,その売買代金を500,000,000円とし,その内訳を,「本土地」及び「本借地土地」について250,000,000円,「本建物」について250,000,000円とする旨を記載した不動産売買契約書を作成した。右契約書には,後日「借地売主」として三郎の名が追記された。

これに基づいて,原告,芳子及び三郎は,昭和60年10月28日内金50,000,000円を受領し,同年11月16日残金450,000,000円を受領した。右3名は,ほかに,日本住建販売から右契約に係るいわゆる裏金として30,000,000円を受領した(右残金450,000,000円を受領した日に三郎が小切手でこれを受領し,そのうち20,000,000円は,共積信用金庫本店において原告の名義及び芳子の名義でそれぞれ10,000,000円の定期預金とされたが,これらの各定期預金は昭和61年3月1日に解約された上,岡三證券株式会社虎の門支店における「花田由二」名義の割引興業債券の購入の資金に充てられた。)。

右の経緯によれば,原告,芳子及び三郎は,昭和60年10月28日日本住建販売に対し,本件建物,その敷地上の権利,甲土地及び乙土地借地権を一括して代金530,000,000円(以下「本件代金」という。)で売り渡したものというべきであり(以下この売買契約を「本件契約」という。),右2の権利関係等からすると,原告は,そのうち,本件建物,甲一部分の借地権及び乙一部分の転借権を売り渡したものというべきである。

(4) ところで,法人税の課税関係においては,法人は常に経済人として利潤の追求のために合理的な経済行動をとるものとして律せられるべきものであり,とりわけ,法人税の納税義務者の大半を占める商事会社についてはそのように取り扱うべきである。そして,右の理は,同族会社についても等しく当てはまるのであって,むしろ,同族会社においては恣意的な経理処理がされがちであるから,これに対する課税については,右のような観点に特に留意する必要がある。したがって,例えば,法人が,その所有に係る建物及びその敷地上の権利を,敷地の所有者と共同しその有する底地権と一括して譲渡した場合において,その法人の譲渡益を算出するに当たっては,実際に敷地所有者との間で代金の総額をどのように配分したかを直接問題とするのではなく,通常の法人の行う取引であればどのような配分を受けるべきであるかという観点から検討しなければならない。

(5) かかる観点から,本件代金のうち,原告が配分を受けるべき金額(以下「原告取分額」という。)を算出すると,以下のとおりとなる。

ア 本件建物につき配分を受けるべき金額

本件建物は現存していないので,本件代金のうち,これにつき原告が配分を受けるべき金額はないものとする。

イ 甲一部分の借地権及び乙一部分の転借権につき配分を受けるべき金額

a 別紙物件目録一記載のとおり,本件建物の床面積は,1階が81.68m2,2階及び3階がいずれも84.82m2であり,甲土地の面積は86.24m2であり,乙土地の面積は41.20m2である。

b 本件建物の敷地の面積は,この建物が存在し得る最小限の面積である84.82m2(その2階及び3階の各床面積)とし,これを,甲一部分と乙一部分との面積比が甲土地と乙土地との面積比に等しいものとして按分すると,甲一部分の面積は57.40m2となり,乙一部分の面積は27.42m2となる(他方,甲土地中甲一部分を除くその余の部分の面積は28.84m2となり,乙土地中乙一部分を除くその余の部分の面積は13.78m2となる。)。

c 本件代金の額を,甲土地に対する部分と乙借地権に対する部分とに区分するにつき,甲土地の所有権と乙借地権との間で単位面積当たりの価値を等しくして計算の便宜を図るため,乙土地及び乙一部分の各面積を更地としての面積に換算することとする。乙土地の借地権割合は,その所在する地域における一般的な借地権割合に照らして80%とするのが相当である。そうすると,右のように換算した乙土地と乙一部分との面積は,それぞれ32.96m2及び21.94m2となる。

d 本件代金額中甲土地に対する部分の額は,本件代金額530,000,000万円に,甲土地の面積(86.24m2)と右cの換算に係る乙土地の面積(32.96m2)との合計面積に対する甲土地の面積の割合を乗じた383,449,664円である。本件代金額中乙借地権に対する部分の額は,本件代金額530,000,000円に,右合計面積に対する右cの換算に係る乙土地の面積の割合を乗じた146,550,336円である。

e 本件代金額中甲一部分の借地権に対する部分の額は,右dの本件代金額中甲土地に対する部分の額383,449,664円に,右cの借地権割合80%を乗じ,更に甲土地の面積(86.24m2)に対する甲一部分の面積(57.40m2)の割合を乗じた204,174,496円となる。本件代金額中乙一部分の転借権に対する部分の額は,右dの本件代金額中乙借地権に対する部分の額146,550,336円に,右cの借地権割合80%を乗じ(転借権の価額は,借地権の価額に借地権割合を乗じた額である。),更に右cの換算に係る乙土地の面積(32.96m2)に対する右cの換算に係る乙一部分の面積(21.94m2)の割合を乗じた78,041,610円となる。

ウ したがって,本件代金のうち原告が配分を受けるべき金額は,右イeの本件代金額中甲一部分の借地権に対する部分の額(204,174,496円)及び本件代金額中乙一部分の転借権に対する部分の額(78,041,610円)の合計額である282,216,106円となる。

(6) このように,原告には,本件契約によって,282,216,106円の譲渡益が発生したところ,本件法人税の確定申告においては,建物等の譲渡益は160,000,000円しか計上されていないので,その差額である122,216,106円を所得金額に加算すべきである。

(三)受取利息 73,753円

原告は,前記(二)(3)のとおり,共積信用金庫本店にその名義の10,000,000円の定期預金を有していたところ,昭和61年3月1日これを解約したため,同信用金庫から右金額の利息を受領した。この受取利息の額は本件法人税の確定申告には計上されていないので,これを所得金額に加算すべきである。

(四)仲介手数料 3,187,249円

原告,芳子及び三郎は,昭和60年11月16日株式会社シャルム管財に対し本件譲渡契約に係る仲介手数料として15,000,000円を支払ったところ,そのうち,原告が負担すべき部分の額は,右仲介手数料の額に,本件代金の額(530,000,000円)に対する原告の取分額(282,216,106円)の割合を乗じて算出した金額である7,987,249円となる。しかるところ,本件法人税の確定申告においては,仲介手数料は4,800,000円しか計上されていないので,その差額である3,187,249円を所得金額から減算すべきである。

(五)所得金額 119,824,232円

右金額は,前記(一)の金額に,前記(二)及び(三)の各金額を加え,右(四)の金額を減じた金額である。

以上のとおり,原告の本件事業年度の所得金額は119,824,232円であり,本件更正に係る所得金額はこれを下回る103,095,375円であるから,本件更正は適法である。

2  本件青色取消処分の適法性

原告は,本件代金中,前記1(本件更正の適法性)(二)(3)の30,000,000円のうちの配分を受けるべき部分について,総勘定元帳及び損益計算書等の帳簿書類の記載をしなかったのみならず,これを簿外定期預金とし,更には実在しない者の名義による割引興業債券の購入費に充てていたものであって,これらの事実は,法人税法127条1項3号所定のその事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載したという事由に当たるから,本件青色取消処分は,適法である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(本件更正の適法性)(一)(申告所得金額)の事実は認める。

(二)(1)  同(二)(建物等の譲渡益)(1)の事実は認める。

(2)ア 同(2)アの事実中,乙土地の面積が41.20m2であることは否認し(同土地の面積は42.40m2dある。),その余は認める。

イ 同イ柱書のうち,甲土地は,芳子がこれを所有しており,原告は,そのうち甲一部分を芳子から借り受けていたことは認め,その貸借関係が賃貸借であることは否認し,主張は争う。甲一部分の貸借関係は,後記のとおり使用貸借である。

a 同aの事実中,由楠及び芳子が本件建物の3階部分を被告主張のとおり使用していたことは認め,芳子が右建物部分を現在なお使用しているとの点は否認する(芳子は昭和59年10月以降右建物部分を使用していない。)。主張は争う。

b 同bの事実中,原告が被告主張のとおり固定資産税の納付資金を出捐していることは認める。主張は争う。

c 同cの事実中,原告が被告主張のとおり乙土地の賃料を出捐していることは認める。主張は争う。

ウ 同ウの事実は認める。

(3) 同(3)の事実中,原告及び芳子が,被告の主張のとおり,契約を締結し,不動産売買契約書を作成したことは認め(もっとも,そこにいう「本土地」及び「本借地土地」と「本建物」との間における代金の配分は決定しなかった。),原告が日本住建販売から30,000,000円を受領したこと(右金員は,後記のとおり三郎が受領したものである。)及び本件代金の額が530,000,000円であることは否認する。

(4) 同(4)の主張は争う。

(5)ア 同(5)アの事実は認める。

イa 同イaの事実中,乙土地の面積が41.20m2であることは否認し(同土地の面積は42.40m2である。),その余は認める。

b 同bの事実中,本件建物の敷地の面積が84.82m2であること,甲一部分の面積が57.40m2であること,乙一部分の面積が27.42m2であること,甲土地中甲一部分を除くその余の部分の面積が28.84m2であること及び乙土地中乙一部分を除くその余の部分の面積が13.78m2であることは否認し(本件建物の敷地の面積は,その1階の床面積に相当する81.68m2とすべきであり,したがって,甲一部分の面積は54.75m2,乙一部分の面積は26.92m2,甲土地中甲一部分を除くその余の部分の面積は31.49m2,乙土地中乙一部分を除くその余の部分の面積は15.48m2となる。),その余及び計算方法は認める。

c 同cの事実中,乙土地の借地割合を80%とするのが相当であることは否認し(右借地権割合については,後記のとおり20%又は大きくとも55%以下とすべきである。),その余及び計算方法は認める。

d 同d及びeは争う。

ウ 同ウは争う。

(6) 同(6)のうち,本件法人税の確定申告の内容が被告主張のとおりであることは認め,その余は争う。

(三)同(三)(受取利息)及び同(四)(仲介手数料)のうち本件法人税の確定申告の内容が被告主張のとおりであることは認め,その余は争う。

(四)同(五)は争う。

2  同2(本件青色取消処分の適法性)の事実は否認し,主張は争う。

五  原告の主張

1(一)原告は,丙建物及び由楠の所有する別紙物件目録六記載の建物(以下「丁建物」という。)の各一部を使用して,シャツの製造販売業を営んでいた。昭和32年丁建物が取り壊されたため,原告は,その跡地に本件建物を丙建物と連結して建築し,これらを併せて,右事業のため使用するようになった。その際,原告,甲土地の所有者である芳子及び乙土地の借地人である由楠のいずれにも,本件建物による敷地利用につき借地権を設定するとか,対価の授受の下で右敷地利用を行うとかいうような認識はなかった。そのため,賃料の約定,権利金の授受,契約書の作成等はされず,その後今日まで賃料の授受もされていない。このような経緯からすれば,本件建物の敷地の利用関係は,使用貸借とみるべきである。したがって,芳子の甲土地の所有権に対する原告の使用借権の割合は,20%と認めるのが相当である。

(二)被告が,甲一部分の賃料の支払に代わるものと主張する原告の経済的負担のうち,由楠及び芳子による本件建物3階部分の使用については,右(一)のとおり原告が賃料を支払うことなく丁建物を使用することの代償としてこれを許していたにすぎず,昭和59年10月以降は,芳子は,右建物部分を使用しなくなっている。また,原告が芳子の固定資産税及び由楠の地代を負担していたことについても,一般に,このような事実のみをもって賃料の支払と認めることはできないのみならず,右両名が甲土地及び乙土地の一部を駐車場として株式会社カメヤマユニオンに賃貸するに際し経理処理上原告を契約当事者としていたことから,原告が右のような負担をしていたに過ぎない。

2  抗弁1(本件更正の適法性)(二)(建物等の譲渡益)(3)の30,000,000円については,日本住建販売において三郎に対し本件契約の締結,履行が完了した際には企画料として30,000,000円を支払う旨約し,本件に係る残代金決済時にこれを支払ったものである。すなわち,芳子は当時一成と同居していたところ,一成が本件契約を知ればこれに反対することは必至であったことから,日本住建販売は,芳子が本件契約を締結,履行することができるよう三郎の尽力を要請し,右のような企画料支払の約定をしたものである。

また,三郎は,右30,000,000円のうち20,000,000円を小切手で受領し,自己の名義でこれを現金化したが,これは,三郎に自らの所得であることの認識があったことを示すものである。

このように,右30,000,000円は全額三郎に帰属するものであり,このうち原告に配分すべき部分はない。

3  仮に本件建物の敷地の利用関係が使用貸借でないとしても,右1(一)の事実のほか,以下のような事情に照らせば,甲土地の所有権又は乙土地の借地権に対する原告の権利の割合は,55%を超えないものと認めるのが相当である。

(一)本件建物の老朽化

本件建物は昭和32年に建築されて以来,階段部分の改造を除けば補修等は全く行われず,昭和55年ころにはその経済的耐用年数は経過したも同然の状態となった。その上,昭和57年以降,原告は,本件建物につき東京都千代田区建築部建築課調査係による窓ガラス等の落下物調査を受けた結果,地震時にクーラーの架台等の落下のおそれがあるとして改善,改修をすべき旨勧告されていた。ところが,原告は常に赤字同様の経営状態にあったためこれを改修したり,取り壊したりすることに着手できなかった。

本件建物の敷地に係る貸借関係は,本件事業年度当時には更新が通常問題となるべきものであったところ,本件建物は著しく老朽化し,原告にはその改修や貸主に対する改築承諾料支払に充てる資金もなかったのであるから,かかる貸借関係における原告の権利の割合は,通常の借地権割合に比して相当の減価がされるべきである。

(二)本件建物の利用状況

本件建物の一階及び二階部分はもと有限会社タツミシャツが使用していたが,同社は昭和59年9月末日これを明け渡した。本件建物の3部分はもと芳子が住居として使用していたが,芳子は同年10月転居した。その結果,本件建物は,株式会社ニッポンレンタカー東都において1階部分を賃借し駐車場として使用していたほかは,これを建物として使用する者がなくなった。したがって,その敷地に係る貸借関係は,このころ建物を所有するという目的を終了したものといって過言でなく,更新が問題となった際には貸主から更新を拒絶されてもやむを得ないものとなっていた。したがって,この点からも,本件建物の敷地に関する原告の権利の割合は,通常の借地権割合に比して相当の減価がされるべきである。

(三)借地権譲渡の承諾料相当部分

借地権の譲渡に当たっては,通常その譲渡価格の一割程度に相当する額の譲渡承諾料が貸主に対して支払われる。原告も,被告主張のとおり本件契約においては本件建物の敷地に係る借地権及び転借権を譲渡したものであり,右(一),(二)の事情からこれらの権利を活かすには他に譲渡するほかはなかったのであるから,芳子等貸主とともにする譲渡ではあっても,これらの譲渡価格の1割程度に相当する額の譲渡承諾料を芳子等に支払うべきであった。したがって,本件契約の代金の配分に当たっては,かかる譲渡承諾料に相当する部分をも斟酌すべきである。

4  仮に本件建物の敷地に関する原告の権利の割合が80%であるとしても,右権利には第三者の借家権の制限があるところ,通常借家権の割合は借地権割合の40%であるから,結局原告の右権利の割合は,土地の所有権に対し48%とすべきである。

5  本件更正は,原告が青色申告の承認を受けているにもかかわらず,これに係る更正通知書に更正の理由が附記されていない。本件更正以前に本件青色取消処分がされているとしても,青色申告の承認の取消の始期と同一の事業年度の法人税の更正であり,また,原告が本件青色取消処分に係る事由を自認していないのであるから,本件更正は違法というべきである。

六  原告の主張に対する被告の反論

1  原告の主張1について

(一) 本件建物は,全く価値のないものであったにかかわらず,本件契約において250,000,000円もの価格が付されたのは,契約当事者である原告,芳子及び三郎並びに日本住建販売がその敷地の利用権に着目したことによるというべきであり,かかる利用権をもって使用借権とすることは本件契約に係る取引の実情を無視するものである。このことは,本件代金のうち,芳子の権利(甲土地の所有権及び乙土地の借地権)に対する原告の権利(甲土地の借地権及び乙土地の転借権)の割合を80%として計算した原告の取分額(甲一部分の借地権に対する部分の額(204,174,496円)及び本件代金額中乙一部分の転借権に対する部分の額(78,041,610円)の合計額)が282,216,106円であって,右250,000,000円と近似する金額であることからも明らかである。

2  原告の主張2について

三郎は原告の取締役であること,抗弁1(本件更正の適法性)(二)(本件物件の譲渡益)(3)の30,000,000円はいわゆる裏金であり,本件契約に係る取引の一環として日本住建販売から支払われたものであることを併せてみると,右金員の全額が三郎に帰属するとは到底考えられない。原告の主張するように,三郎がこれを自己の所得であると認識していたのであれば,三郎は自らの所得税の確定申告においてこれに係る収入を計上すべきであるのに,そのような確定申告はされていない。

3  原告の主張3について

(一) 以下のとおり,本件建物の敷地に関する原告の権利につきその特殊性を考慮する必要はない。

(1) 原告は,その右権利の割合を当該地域において通常認識されている借地権割合よりも縮減すべきであるとし,その根拠とする事情を縷々主張するが,そのいうところの根拠は,いずれも,本来利害の対立する地主と借地人との間において地主側の言い分とされるような,借地人である原告に不利益なものである。しかして,借地人がその借地権割合を決するに当たってかかる事情を考慮すべきであると主張することは,通常の借地関係においては考えられず,本件のような同族会社とその代表者との間においてのほかにはあり得ないところである。右のような主張は,法人税の課税関係の基礎にある合理的な経済行動という観念とは相容れないものであり,法人税の課税に当たってこれを採用することはできないというべきである。

(2) 原告が,本件建物の敷地に関するその権利の割合が主張のように55%以下であると客観的に定まっていると確信していたのであれば,乙土地の所有者である鈴木との関係においても同様の立場で対処する筈であるが,原告や芳子が鈴木に対してかかる立場に立って行動した事実は認められない。

(3) 本件契約は,いわゆる地上げという特殊な状況にあって,借地人である原告,その土地の所有者である芳子及び乙土地の借地人である三郎等や,乙土地の所有者である鈴木のいずれにおいても,それぞれの権利を早期に換金することを期していた筈であるところ,一般にかかる場面において関係各権利者が自らの権利の特殊性を唱えて自己の取分の増大を目論むときは,権利の速やかな換金は困難となるから,当該地域において通常認識されている借地権割合をもとに各権利者の取分を決せざるを得ないところである。

(4) 本件建物は,昭和32年3月に建築された鉄筋コンクリート造の堅牢な建物であり,その耐用年数は60年であるところ,原告は,これをその耐用年数の半ばが経過したときにその敷地に係る借地権とともに譲渡した上,マンションを取得し,本件事業年度において租税特別措置法65条の7所定の特定資産の買換えに係る圧縮記帳の制度の適用を受け,また,三郎,一成及び鼎次は,本件契約によって得た資金を従来からの事業に投入してそれぞれの自己のために使用している。このように,本件契約は,本件建物の老朽化によって事業の撤廃を余儀なくされた結果から出たものではなく,むしろ実質的には事業の継続拡大という経済行動の表れとみることのできるものである。

この一事をもってしても明らかなように,本件建物の敷地に係る原告の権利の割合を決するに当たっては,法人税の課税関係の基礎にある合理的な経済行動という観点によるべきである。

(二) また,原告が本件建物の敷地に関するその権利の特殊性を基礎付ける事由として主張するところは,以下のとおり,右権利の割合に影響を及ぼすようなものではない。

(1) 借地権は原則として当事者の合意によって成立するものであり,その際常に権利金の授受がされるとは限らない。したがつて,本件建物の敷地の貸借関係において権利金の授受や契約書の作成がされなかったとしても異とするに足りず,そのことによって右権利の割合が左右されるものではない。

(2) 本件建物は,右(一)(4)のとおり鉄筋コンクリート造の堅牢な建物であり,本件契約の当時において朽廃にも匹敵するような老朽化の状態になかったことは明らかである。また,原告は,本件建物を譲渡することを見越して,敢えてこれに補修を加えなかったものとみられるから,仮に,本件建物が右当時ある程度老朽化していたとしても,これをもって右権利の割合に影響を与えるほどの事情ということはできない。

(3) 借地権は,一般に,借地人の意志による地上建物の利用状況によってその価値が増減するものではないから,本件建物の1階部分がある時期において駐車場として利用されていたからといって,そのことのゆえに右権利の割合が縮減されるものではない。

(4) 本件契約においては,現に地主に対し譲渡の承諾料を支払うことなく平穏に借地権を売却することができたのであるから,原告の主張するような承諾料に相当する金額を,原告の権利の割合又は取分の算定に当たって斟酌する理由はない。

4  原告の主張4について

芳子等による本件建物の利用はいわゆる間借りというべきものであり,また,本件契約において本件建物につき借家権の制限のあることは前提とされていない。このような本件建物の利用状況や本件取引の実情からみると,本件建物の敷地に係る借地権の評価において原告主張のような借家権の存在を前提とする減価について考慮する必要はない。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件更正の適否について

1  抗弁1(本件更正の適法性)(一)(申告所得金額)の事実,同(二)(建物等の譲渡益)(1)の事実,同(2)アの事実中,原告がもと本件建物を所有していたこと,本件建物の敷地が甲土地及び乙土地の各一部に跨がっていたこと,同イ柱書の事実中,甲土地はもと芳子がこれを所有していたこと,原告が芳子からそのうち甲一部分を借り受けていたこと,同aの事実中,由楠及び芳子(但し昭和59年10月まで)が本件建物の3階部分を被告主張のとおり使用していたこと,同bの事実中,原告が被告主張のとおり固定資産税の納付資金を出捐していること,同cの事実中,原告が被告主張のとおり乙土地の賃料を出捐していること,同ウの事実,同(3)の事実中,原告及び芳子が被告主張のとおり,契約を締結し,不動産売買契約書を作成したこと,同(5)アの事実,同イaの事実中,本件建物の床面積は,1階が81.68m2,2階及び3階がいずれも84.82m2であり,甲土地の面積は86.24m2であること,同bの事実中,本件建物の敷地のうち,甲一部分と乙一部分との面積比は甲土地と乙土地との面積比に等しいものとして按分する計算方法をとるべきこと,同cの事実中,本件代金の額を甲土地に対する部分と乙借地権に対応する部分とに区分するに当たり甲土地の所有権と乙借地権との間で単位面積当たりの価値を等しくして計算の便宜を図るため乙土地及び乙一部分の各面積を更地としての面積に換算する計算方法をとるべきこと,同(6),同(三)(受取利息)及び同(四)(仲介手数料)の各事実中,本件法人税の確定申告の内容が被告主張のとおりであること,以上の事実は当事者間に争いがない。

2(一)  右1の争いのない事実のとおり,原告は,昭和59年10月に至るまではその所有の本件建物の3階部分を対価を授受することなく由楠(その妻である芳子)及びその承継人である芳子に使用させており,その趣旨はその使用料相当額を芳子に対して支払うべき甲一部分の賃料とするものであると解し得るのであり,また,原告は,芳子のため甲土地及び丙建物に対する固定資産税の納付資金を出捐していたものであるところ,原本の存在と成立に争いのない乙第15号証によれば,本件事業年度において原告が出捐した右固定資産税の合計額は573,730円であることが認められる。また,右1の争いのない事実のとおり,原告は,由楠(又はその承継人)のため鈴木に対する乙土地の賃料を出捐していたところ,原本の存在と成立に争いのない乙第12ないし14号証,乙第16号証,乙第24ないし26号証によれば,右賃料の額は,本件事業年度中に支払われた昭和60年1月分から同年12月分につき合計409,500円であることが認められる。右事実によれば,原告は,芳子及び由楠(又はその承継人)のために,右認定の乙土地に関する由楠(又はその承継人)・鈴木間の賃料額等から推認される甲一部分及び乙一部分の適正賃料の額に比して少額とはいい難い金額を毎年継続して出捐してきたものであって,これらの出捐は,甲一部分及び乙一部分の借受けの約定に基づき,その各対価の給付としてされたものと認めるほかはないのである。したがって,甲一部分に関する原告・芳子間の賃借関係及び乙一部分に関する原告・由楠(又はその承継人)間の賃借関係は,いずれも賃貸借と認められるのであって,原告は,甲一部分につき借地権を,乙一部分につき転借地権をそれぞれ有していたこととなる。

(二)  原告は,本件建物が建築された際に,原告,芳子及び由楠のいずれにもこれによる敷地利用につき借地権を設定するとか,対価の授受の下で右敷地利用を行うとかいうような認識はなく,賃料の約定,権利金の授受,契約書の作成等はされなかったから,右賃借関係は使用賃借である旨の主張をするが,右貸借関係のような同族会社とその代表者との間の土地の貸借関係にあっては,当事者に明確な法律的認識のないことは通常あり得るところであり,その場合に一定額をもって賃料額を定めることや契約書の作成等がされなかったからといって,契約関係の成立を否定し得るものではなく,また,現に貸借契約上土地の使用収益の対価と目すべき給付がされている以上それが賃貸借契約に当たることを否定すべき理由もない。また,権利金の授受は,賃貸借契約の要件となるものではなく,同族会社とその代表者との関係というような,契約当事者の地位,関係等によっては建物の所有を目的とする賃貸借契約においてこれが行われないことがあっても異とするに足りない。そうであるとすれば,本件建物による敷地の使用が開始された当初において原告の主張するような事柄があったとしても,これをもって右(一)の認定が妨げられるものではない。そもそも原告は,本件法人税の申告に当たり,右の使用権が借地権であるとして租税特別措置法65条の7所定の事業用資産買換え特例の適用を受けたのであって,本訴訟に至りその立場を飜してその借地権があることを否定するなどは誠実な訴訟遂行とおよそいえるものではない。

(三)  原告はまた,芳子の固定資産税及び由楠(又はその承継人)の賃料の負担についても,かかる事実のみをもって賃料の支払と認めることはできないのみならず,右両名が甲土地及び乙土地の一部の駐車場として他に賃貸するに際し経理処理上原告を契約当事者としていたことから,原告が右のような負担をしていたに過ぎない旨の主張をするが,まず,芳子の固定資産税及び由楠(又はその承継人)の賃料の負担の事実は,右(一)のとおり,その出捐に係る金額を甲一部分及び乙一部分の適正賃料の額と比較してみれば,これをもって右各部分の使用の対価としての性格を認めるに足りるというべきである。また,芳子及び由楠(又はその承継人)が甲土地及び乙土地の一部を他に賃貸するに際し経理処理上原告を契約当事者としていたとの点については,仮にそのような事実があったとしても,原告が実質的に右の出捐をしたとの認定が左右されるものではない以上,これまた右(一)の認定を妨げるものではない。

3(一)  前記1の争いのない事実に,原本の存在と成立に争いのない乙第18ないし23号証,成立に争いのない甲第33号証の2及びこれにより成立を認め得る同号証の1によって成立を認め得る甲第18号証,弁論の全趣旨により成立を認め得る甲第19号証,証人三郎の証言により成立を認め得る甲第20号証並びに官署作成部分についてはその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定され,山岸利治作成部分については弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第28号証並びに証人三郎及び同福田照幸の各証言(右甲第20号証及び右各証言について後記借信し難い部分を除く。)を綜合すれば,以下の事実が認められる。

(1) 日本住建販売は,昭和60年11月16日本件契約に係る残代金450,000,000円を支払うのと同時に,株式会社千葉相互銀行(現在の商号は株式会社京葉銀行)(北方支店)振出しに係る額面20,000,000円の小切手を三郎に裏書交付するとともに,現金10,000,000円を手渡した。三郎は同月20日右小切手を呈示してその支払を受けた。

(2) 同月21日共積信用金庫本店に,原告及び芳子の各名義で各10,000,000円の定期預金が預け入れられた。右各定期預金は,昭和61年3月1日いずれも解約された。その預入れ及び解約の手続は三郎がこれを行った。

(3) 同日岡三証券株式会社虎の門支店において「花田由二」名義の割引興業債券が代金合計28,653,000円で購入された。その購入の手続は三郎がこれを行った。

以上の事実が認められ,この認定事実に,右30,000,000円については,その授受につき領収書その他一切の書面の作成がされていないこと(前掲乙第28号証によってこれを認める。),三郎が芳子の子であり,原告の取締役であって,実質的に原告の経営に当たっていること(三郎が実質的に原告の経営に当たっていることは,証人三郎の証言によってこれを認める。その余は前記1のとおり当事者間に争いがない。),三郎に本件契約の締結に当たり特に多額の報酬を受けるような働きをしていないこと(三郎本人もその証言において自認するところである。)を併せてみれば,右(1)の合計30,000,000円の金員は,本件契約に関し,課税を免れるためのいわゆる裏代金として約定され,その約定に基づいて支払われたものであり,その余の代金500,000,000円と同様に原告,芳子及び三郎の三名に帰属するものと認められる。右約定は,三郎が発意して,日本住建販売に提案しており,また,受領後の預金預入れ等の手続も主として三郎がこれを行ったものと認められるが,右のような三郎の地位にかんがみると,それは,三郎が,原告及び芳子の取分となる部分についてはこれらの者から任されて,事実上右金員を一括して管理,運用したというに過ぎないものと認めるべく,これらの事実があるからといって右金員の金額が三郎に帰属するものとみることはできない。

(二)  証人三郎の証言及び供述記載(前掲甲第20号証)には,右金員は金額が自己に帰属するものであるという趣旨の,証人福田照幸の証言には三郎の代理人として当時そのように理解していたという趣旨の,右認定に反する部分があるが,これらは,いずれも,右(一)(2)の各定期預金の名義が原告及び芳子とされた点について何ら首肯するに足りる具体的な根拠を述べず,また,三郎は昭和60年分の所得税の確定申告において右金員に係る収入を計上していない(弁論の全趣旨によってこれを認める。)という証人三郎自らの態度(証人福田照幸にとっては税務に関する委任を受けた(同証人の証言及びこれにより成立を認め得る甲第30号証によってこれを認める。)本人の態度)とも矛盾するものであって,借信し難い。

4  そうすると,原告,芳子及び三郎は,昭和60年10月28日日本住建販売に対し,本件建物,その敷地上の権利,甲土地及び乙借地権を一括して代金530,000,000円で売り渡したものであり,原告は,そのうち,本件建物,甲一部分の借地権及び乙一部分の転借地権を売り渡したものと認められる。

そこで次に,右代金中の原告取分額について検討する。

(一)  本件建物に関する取分額について

前記1のとおり,本件建物につき原告が配分を受けるべき金額はないことは当事者間に争いがない。

(二)  甲一部分の借地権及び乙一部分の転借地権に関する取分額について

(1) 前記1のとおり,本件建物の床面積は,1階が81.68m2,2階及び3階がいずれも84.82m2であり,甲土地の面積は86.24m2であることは当事者間に争いがない。乙土地の面積については,成立に争いのない乙第11号証(同土地の土地登記簿謄本)の地積蘭にはこれを41.20m2とする記載があるところ,不動産登記法81条ノ2第2項の規定にかんがみると,右は,昭和61年3月31日別紙物件目録二記載の土地から乙土地が分筆されたことに伴い,その面積を実測した結果に基づいて記載されたものと考えられるから,その正確性は高いものというべきであるから,そうであるならば,同土地の面積は右記載のとおり41.20m2と認めるべきである。これに反する甲第13号証の記載は,その趣旨からして,同土地をもと所有していた鈴木においてその賃貸人の地位の移転を通知するに当たりその目的物である同土地を特定表示するためにしたものに過ぎないから,右認定を左右するものではない。

(2) 右(1)に認定したとおり,本件建物の床面積は,1階が81.68m2であり,2階及び3階がいずれも84.82m2であるところ,本件建物の敷地の面積は,その存立のために必要とされるところの面積にほかならないから,その2階又は3階の床面積に相当する84.82m2と認められる。これをその1階の床面積に相当する81.68m2とすべきであるとする原告の主張は採用し得ない。

しかして,右敷地の面積を甲一部分と乙一部分とに按分するに当たっては右各部分の面積比を甲土地と乙土地との面積比に等しいものとして計算する方法をとるべきことは,前記1のとおり当事者間に争いがないから,これによって右各部分の面積を按分して算出すると,甲一部分のそれは57.40m2となり,乙一部分のそれは27.42m2となる(他方,甲土地中甲一部分を除くその余の部分の面積は28.84m2となり,乙土地中乙一部分を除くその余の部分のそれは13.78m2となる。)

(3)ア 前記1のとおり,本件代金の額を甲土地に対する部分と乙借地権に対応する部分とに区分するにつき甲土地の所有権と乙借地権との間で単位面積当たりの価値を等しくして計算の便宜を図るため乙土地及び乙一部分の各面積を更地としての面積に換算する計算方法をとるべきことは当事者間に争いがない。

イ そこで,甲土地又は乙土地の所有権に対する甲一部分又は乙一部分の借地権の各割合及び乙土地の借地権に対する乙一部分の転借地権の割合について検討する。成立に争いのない乙第4号証,乙第5号証の2(着色による表示部分を除く。),原本の存在と成立に争いのない同号証の1(着色による表示部分を除く。),その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第27号証によれば,昭和60年分相続税財産評価基準は甲土地及び乙土地の借地権割合を80%としていること,右各土地の近傍における土地の売買の取引実例をみると東京都千代田区東神田に所在する法人の所有に係る土地とその代表者を含む6名の準共有に係る借地権とを一括して譲渡したという本件契約と類似した取引において,借地権割合を80%とした事例があること,以上の事実が認められ,この認定事実と前掲乙第28号証及び証人福田照幸の証言によって成立を認め得る甲第26号証とによれば,甲土地及び乙土地の,その所在する地域において通常認識されている借地権割合は80%であると認められる。

しかるところ,原告は,本件建物の敷地に関する原告の権利には諸般の特殊性があるからこれを考慮してその甲土地の所有権又は乙土地の借地権に対する割合は55%を超えないものと認めるべきである旨の主張をし,甲第10号証にはこれとほぼ同趣旨の弁護士(原告訴訟代理人)の意見の記載があり,同趣旨に出た不動産鑑定士の鑑定意見書(前掲甲第26号証)もあるので,以下,それらの採否について検討する。

原告は,本件建物が建築された際に,原告,芳子及び由楠のいずれにも借地権を設定するといった認識はなく,一定額をもってする賃料の約定,権利金の授受,契約書の作成といったことも行われていないから,その敷地の貸借関係における原告の権利の割合については減価がされるべきであると主張する。しかしながら,右貸借関係のような同族会社とその代表者との間の土地の貸借関係にあっては,右のような事情があるからといって貸借契約の成立やその有償性が否定されるものとは解されないことは,前記2(二)に判示したとおりであり,これと同様の見地に立ってみれば,原告の主張する事由が貸借関係における借地人の権利の価値を減ずるようなものではないこともまた明らかというべきである。

原告は,次に,本件建物は建築以来,補修等が行われず,その経済的耐用年数は経過したも同然の状態となり,これにつき東京都千代田区建築部建築課調査係により改善,改修をすべき旨の勧告がされるなど,本件事業年度当時,本件建物は著しく老朽化し,原告にはその改修や貸主に対する改築承諾料支払に充てる資金もなかったのであるから,かかる貸借関係における原告の権利の割合は相当の減価がされるべきであると主張する。しかしながら,一般に,借地上の建物が時の経過により老朽化しても,その程度が平成3年法律第90号によって廃止された借地法2条にいう朽廃にまで至らない限りは,借地権それ自体には何ら影響を及ぼすものではなく,その老朽化が朽廃の程度に至るか,又は少なくともその程度に至る事態が近い将来に見込まれる状態に立ち至ったというのでない限り,その借地権割合についても減価を考慮する必要はないものというべきところ,成立に争いのない甲第3号証並びに原本の存在と成立に争いのない甲第11号証の2及び乙第14号証によれば,本件建物は昭和33年に建築された鉄筋コンクリート造陸屋根3階建の事務所兼倉庫であって,建築後30年弱になるものであるが,その耐用年数は60年であることが認められるのであり,右主張に係る事由は,仮にそのような事実があったとしても,本件建物が朽廃しており,又は近い将来にその程度に至る事態が見込まれるという程度にまで至らず,時の経過に伴って通常避けられない陳腐化ないし老朽化の域を出ないと認めるほかないものであるから,これをもってその敷地の借地権割合の価値の減少をもたらすに足りる事由とすることはできない。

原告は,更に,本件建物は,本件事業年度当時原告からの賃借人が1階部分を駐車場として使用していたほかは,これを建物として使用する者がなくなっており,その敷地に係る貸借関係は,このころ建物を所有するというその目的を終了したというべく,貸主から更新を拒絶されてもやむを得ないものとなっていたから,貸借関係における原告の権利の割合はこの点を考慮して減価がされるべきであるとの主張をする。しかしながら,右のとおり本件建物は未だ十分耐用年数の残っているものであって,これを居住又は事業のために使用する者が一時的にいない状態であったからといって,その敷地に係る貸借関係において,建物所有の目的が終了するに至り,又は更新の拒絶されることがやむを得ないこととなるということはできない。そうであるとすれば,原告の右主張はその前提において失当というべきである。

原告は,また,借地権の譲渡に当たっては,通常その譲渡価格の一割程度に相当する額の譲渡承諾料が貸主に対して支払われるところ,原告は本件契約において本件建物の敷地に係る借地権及び転借権を譲渡したのであり,譲渡承諾料を芳子等に支払うべきであったものであるから,本件契約の代金の配分に当たっては,右の譲渡承諾料に相当する部分をも斟酌すべきであると主張する。しかしながら,借地権の譲渡に当たり譲渡承諾料が貸主に対して支払われることが通常であるとしても,その支払の有無がその借地権の経済的な価値や土地所有権に対する割合を左右するものでないことは明らかである。右主張が,そのいうところの譲渡承諾料に相当する金額を,原告の取分額から控除すべきであるというものであるとしても,そのような譲渡承諾料の支払が現実にされたわけでないことは右の主張自体によって明らかであり,また,経済人としての合理的な行動という見地から前記認定の本件契約の経緯及び内容をみても,その締結に伴い原告と芳子等との間で右のような譲渡承諾料の授受が合意されたとは認められない。したがって,かかる金額を原告の取分額から控除すべき理由はない。

前掲甲第26号証には,本件代金に対する原告取分額の割合は29.3%が相当である旨の不動産鑑定士の意見の記載があるが,右意見は,甲一部分に関する原告の権利を「借地権と使用借権の中間的性格の権利」と認定し,これを前提として本件建物の敷地に関する原告の権利の価額を査定したというものであることが同号証自体によって明らかであるところ,右に判示したとおり右権利は,甲一部分については借地権であり,乙一部分については転借地権であるから,右意見はこれと前提を異にするものであって,採用することができない。

以上のとおり,原告が本件建物の敷地に関する原告の権利の割合の算定につき考慮すべき右権利の特殊性として主張するところ及び右甲第10号証及び甲第26号証の各意見の記載は,いずれも採用の限りでない。

ウ 結局,甲土地又は乙土地の所有権に対する甲一部分は乙一部分の借地権の各割合及び土地の借地権に対する乙一部分の転借地権の割合は,いずれも80%とするのが相当であると認められる。そうすると,前記アの換算に係る乙土地及び乙一部分の各面積は,それぞれ32.96m2及び21.94m2となる。

原告は,仮に本件建物の敷地に関する原告の権利には第三者の借家権の制限があるから,右権利の割合の算定に際してはこれを考慮すべきであるという趣旨の主張をする。しかして,そのいうところの第三者の借家権が誰のいかなる権利を指すものかは必ずしも明確でないが,原告の主張によれば,本件事業年度当時本件建物は,株式会社カメヤマユニオン及び株式会社ニッポンレンタカー東都がその1階部分を賃借し,駐車場として使用しており,そのほかにこれを使用する者はなかったというのであるから,右両名の賃借権についてみるに,証人三郎の証言により原本の存在と成立を認め得る甲第14,第15号証,成立に争いのない甲第17号証及び右証言によれば,原告と右両名との間の賃貸借契約は,いずれも,右1階部分を駐車場として貸借することとし,これが建物の賃貸借でないことを確認した上で,本件建物の建替え時までの一時使用として昭和59年11月30日限り右駐車場を明け渡す旨それぞれ約定していることが認められる。そうであるとすれば,かかる各賃借権は,その内容,期限等にかんがみるといずれも原告の右権利の割合の算定に当たりこれを考慮することを要しないものというべく,原告の主張を採用することはできない。

(4) 以上によると,本件代金額中田土地に対する部分の額は,本件代金額530,000,000円に,甲土地の面積(86.24m2)右(3)の換算に係る乙土地の面積(32.96m2)との合計面積に対する甲土地の面積の割合を乗じた383,449,664円となり,本件代金額中乙借地権に対する部分の額は,本件代金額530,000,000円に,右合計面積に対する右(3)の換算に係る乙土地の面積の割合を乗じた146,550,336円となる。したがって,本件代金額中甲一部分の借地権に対する部分の額は,右の本件代金額中甲土地に対する部分の額383,449,664円に,右(3)の甲土地の所有権に対する甲一部分の借地権の割合である80%を乗じ,更に甲土地の面積(86.24m2)に対する甲一部分の面積(57.40m2)の割合を乗じた204,174,496円となる。本件代金額中乙一部分の転借地権に対する部分の額は,右の本件代金額中乙借地権に対する部分の額146,550,336円に,右(3)の乙土地の借地権に対する乙一部分の転借地権の割合80%を乗じ,更に右(3)の換算に係る乙土地の面積(32.96m2)に対する右(3)の換算に係る乙一部分の面積(21.94m2)の割合を乗じた78,041,610円となる。

(三)  したがって,本件代金のうち原告の取分額は,本件代金額中甲一部分の借地権に対する部分の額(204,174,496円)及び本件代金額中乙一部分の転借権に対する部分の額(78,041,610円)の合計額である282,216,106円となる。

5  そうすると,原告には,本件契約によって,282,216,106円の譲渡益が発生したこととなるところ,前記1のとおり本件法人税の確定申告において建物等の譲渡益は160,000,000円しか計上されていないので,その差額である122,216,106円を所得金額に加算すべきこととなる。

6  原告が供積信用金庫本店にその名義の10,000,000円の定期預金を有していたところ,昭和61年3月1日これを解約したことは前記3(一)に認定したとおりであり,前掲乙第20号証によれば,原告がこれに伴って同信用金庫から73,753円の利息を受領したことが認められる。前記1のとおりこの受取利息の額は本件法人税の確定申告には計上されていないので,これを所得金額に加算すべきこととなる。

7  成立に争いのない甲第29号証によれば,原告,芳子及び三郎は,昭和60年11月16日株式会社シャルム管財に対し本件譲渡契約に係る仲介手数料として15,000,000円を支払ったことが認められるところ,そのうち,原告が負担すべき部分の額は,右仲介手数料の額に,本件代金の額(530,000,000円)に対する右4(三)の原告の取分額(282,216,106円)の割合を乗じて算出した金額である7,987,249円となる。しかるところ,前記1のとおり,本件法人税の確定申告において,仲介手数料は4,800,000円しか計上されていないので,その差額である3,187,249円を所得金額から減算すべきこととなる。

8  そうすると,原告の本件事業年度の所得金額は119,824,232円となって,本件更正に係る所得金額103,095,375円はこれを下回る。

9  原告は,本件更正は,これに係る更正通知書に更正の理由が附記されておらず,それ以前に本件青色取消処分がされているとしても,青色申告の承認の取消しの始期と同一の事業年度の法人税の更正であり,また,原告が本件青色取消処分に係る事由を自認していないのであるから,違法である旨の主張をする。

しかしながら,法人税法によれば,税務署長は,内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合にはその更正に係る更正通知書にその更正の理由を附記しなければならないものとされている一方(同法130条2項),青色申告の承認を受けた内国法人につき同法127条1項各号の1に該当する事実があったとして,その承認が取り消された場合においては,その各号に掲げる事業年度の開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなすものとされている(同項柱書後段)。これらの規定によれば,青色申告の承認を受けた内国法人につきその承認が取り消された場合において,税務署長が,その取消しの効果の遡ることとなる右各号所定の事業年度の開始の日以後に右内国法人の提出した申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をするときは,その更正に係る更正通知書に更正の理由を附記することは,更正の手続上の要件ではないこととなる。そして,このことが,更正が青色申告の承認の取消しの効果の遡ることとなる事業年度と同一の事業年度の法人税の更正であるかどうか,原告が取消しの理由とされた同法127条1項各号所定の事実を自認しているかどうかといった事柄によって左右される余地はないことは,右各規定の文理及び趣旨にかんがみて明らかである。

しかして,前記一のとおり,被告が原告に対して本件事業年度分以降の法人税の青色申告の承認を取り消す旨の本件青色取消処分をしたこと,本件法人税の確定申告が昭和61年10月31日にされたことは当事者間に争いがないから,本件更正については,その更正通知書に更正の理由を附記することは,その手続上の要件ではないこととなる。

よって,原告の右主張を採用する余地はない。

以上によると,本件更正は適法である。

三  本件青色取消処分の適否について

右二に認定判示したところに,前掲乙第14号証及び証人三郎及び同福田照幸の各証言を綜合すれば,原告は,本件代金中,前記二3(一)の合計30,000,000円のうちの配分を受けるべき部分について,総勘定元帳及び損益計算書等の帳簿書類の記載をせず,これを簿外定期預金としたこと,これを実在しない者である「花田由二」の名義による割引興業債券の購入費に充てていたことが認められる。しかして,これらの事実は,法人税法127条1項3号に定める,その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載したという事由に当たるから,本件青色取消処分は,適法である。

四  結語

以上によれば,原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 喜多村勝徳 裁判官 長屋文裕)

〈以下省略〉

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